紙幣の肖像に中国をみよ! 通貨と権力の150年史『人民元の興亡』(5/24刊)

 

<人々の日々の営みや経済活動はもちろんのこと、歴史や政治、外交、日中関係も交差する通貨人民元を追いかければ、中国の全体像に少しでも近づけるかもしれない>

筆者は「あとがき」でこう書いています。

本書を読み進めると、ときに毛沢東、鄧小平、習近平ら歴代指導者たちの頭の中を覗きみるような感覚にとらわれます。

たとえば、毛沢東。今でこそ、人民元紙幣に刷られる唯一の「顔」ですが、紙幣に刷られたのは死後のこと。生存中は、部下の要望を頑なに断ったとされています。「私の肖像は使ってはならない。私に、その資格はない」と。なぜか。共産中国(1949年)の発足直後、今日の中国からは考えづらいですが、共産党のほか、中国民主同盟など民主党派や少数民族なども政府の会議に出席していました。

つまりは、全中国の力を結集する必要があった。だから、「共産党のリーダーを紙幣の顔にはしないほうがよい、という判断があったのではないか」とする研究者の声を筆者は紹介しています。

毛がはじめて紙幣に登場したのは、1987年から発行された紙幣シリーズです。文革後の混乱がようやく収まり、毛らの政治的な評価がすでに定まった頃でした。一方で、このシリーズでは、毛以外にも、ウイグルやモンゴルなどの少数民族や、農民や工場労働者などの横顔が記された紙幣がありました。

階級や民族の「団結」が強く意識されるとともに、文革というトラウマを経て、そろそろ前に歩きだそうという意志を感じます。皮肉にも、そうした空気が、89年の天安門事件に表出してしまった、という見方もできるのですが。

紙幣を毛沢東に統一したのは99年。国家としての自信を備えたからなのか、「世界中でもっとも知られている人がふさわしい」という意見が、党の要職を務めた長老たちから寄せられたそうです。現在、皆さんがよく知る紙幣です。毛沢東の顔に代表される、強き中国は、反面、労働者や農民、少数民族を切り捨てたともいえなくもありません。

このように筆者は、人民元を「空飛ぶ絨毯」のように扱いながら、アヘン戦争から現在にいたるまでの全150年を、縦横無尽に旅します。

さて、次なる紙幣に、誰の顔が刻まれるのでしょうか。

 

吉岡桂子(よしおか・けいこ)

『人民元の興亡 毛沢東、鄧小平、習近平が見た夢

定価:本体1,800+税 2017年5月24日発売

四六判ハードカバー・400ページ

ISBN978-4-09-389771-6

本書内容はこちら

<プロフィール>吉岡桂子…1964年、岡山県生まれ。岡山大学法学部卒業。山陽放送を経て、1989年に朝日新聞社に入社。和歌山、大阪、東京で取材したのち、対外経済貿易大学(北京)で中国語研修。2013年3月まで、計7年間にわたり中国(北京・上海)特派員。米・戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員(2007年度)。朝日新聞編集委員として、2017年5月からバンコクを拠点に中国とアジアの取材を続ける。著書に『問答有用 中国改革派19人に聞く』(岩波書店、2013年)『愛国経済 中国の全球化(グローバリゼーション)』(朝日新聞出版、2008年)。

紙幣の肖像に中国をみよ! 通貨と権力の150年史『人民元の興亡』(5/24刊)